2026年の夏は、これまでにないほど暑い日が続いています。それでも8月下旬になり、ようやく25℃前後まで気温が落ち着き、少し過ごしやすくなってきたストラスブール。そんな週末、街でちょっと変わったイベントが開催されました。
チューリッヒから、船がやって来る。
しかも、その船には「熱いキビ粥」が乗っているらしい。
いったい、何のために。
それが、10年に一度開催される「Hirsebreifahrt(ヒルゼブライファート)」でした。
「Hirsebreifahrt」とは
なぜ、わざわざチューリッヒからストラスブールまで、船でキビ粥を運んでくるのか。その答えは、今から570年ほど前にさかのぼります。
Hirsebreifahrtの始まりは1456年。当時、ストラスブールとチューリッヒは、友情と相互防衛のための同盟を結びました。そこでチューリッヒの人々は、「ストラスブールが危機に陥ったら、私たちはすぐに助けに行ける」ということを証明しようとします。
その方法が、まさかの船旅でした。チューリッヒを出発した若者たちは、リマト川、アーレ川、そしてライン川を下り、24時間以内にストラスブールへ到着したそうです。しかもキビ粥を入れた鍋を持ってきており、到着したときもまだ熱いままだったといいます。
これが、Hirsebreifahrtの始まりです。1946年からは、この歴史的な出来事を再現する行事として、10年に一度開催されるようになりました。2026年は8月19日にチューリッヒを出発し、ライン川を下りながら4日かけてストラスブールへやって来ました。
ストラスブールに船が到着
8月22日、いよいよその船がストラスブールに到着しました。
15時を過ぎるころには、Place du Marché-aux-Poissons(マルシェ・オ・ポワソン広場)周辺には、かなりの人が集まっていました。チューリッヒのファンファーレ演奏が始まり、号砲が鳴る中、船が少しずつ近づいてきます。沿岸からは大きな歓声が沸き起こっていました。
そして、もちろん……あのキビ粥も。
伝統のキビ粥が、訪れた人たちに無料で振る舞われました。私もいただいてみましたが、ほどよい甘さにレーズンがアクセントになっていて、思っていた以上に美味しかったです。ファンファーレが街に音楽を響かせ、旧市街は一気にお祭りムードに。伝統衣装を身につけた参加者たちの姿もあり、普段のストラスブールとは少し違った雰囲気でした。
10年に一度なのに
その日の夕方、クライミング友との集まりでこの日の動画を見せてみると、返ってきたのは「知らないなぁ」というひと言でした。
570年の歴史があり、10年に一度チューリッヒから船がやって来て、熱いキビ粥まで運んでくる。しかもストラスブールの中心部でファンファーレやパレードまで行われる。それなのに、「知らないなぁ」なのです。
でも、よく考えてみれば無理もありません。地元に長く住んでいても、すべての伝統行事を知っているわけではないのです。実際、私自身も今回イベントが開催されると知るまで、Hirsebreifahrtという名前すら知りませんでした。むしろ、こうして外から来た自分の方が、思いがけずこの街の歴史の一片に出会えたのかもしれません。
次に船がやって来るのは、10年後の2036年。その頃、自分がどこで何をしているかは分かりませんが、もしまだストラスブールにいたら、今度は迷わず川辺まで見に行きたいと思います。